「地方自治を取り巻く悪い面とよい面」
〜啓祥会総会 講演(平成19年10月17日)から〜
私達を取り巻いている環境というのは必ずしもあまりいい面ばかりではありません。
悪い面としまして、格差は間違いなく拡大しています。これは国と地方、東京と地方、それから地方自治体の間でも。
今、国全体をみると景気は悪くありません。 地方税収も全体としては伸びています。ところがそれが地方で働く人の生活実感、私どもの生活がよくなったということは全くありません。その一番の原因は、いわゆる三位一体改革です。国の補助金を削って、税源を地方公共団体へ委譲し、交付税もそれに合わせて整理をするという話しだったんですが、地方公共団体はこのおかげで、お金が来なくなり、今、七転八倒しています。そして、いろいろな面で住民サービスを切りつめています。このことが地方の疲弊につながっています。
具体的に言いますと、三位一体改革において、国庫補助金は約4.7兆円減りました。それに対し、税源委譲として、地方に3兆円渡されました。これだけで、1.7兆円ぐらい差があるんですが、これに止まらなかった。 私は、この補助金の4.7兆と税源委譲が3兆の差は地方が工夫をすれば埋められない数字ではないと思っておりますし、国が今830兆円の借金をしておりますから、それを回復するために、地方も協力していくことは当たり前ですので、ここは仕方がないと思います。ところがその影で、国から地方に渡される交付金、地方交付税が、実に5.1兆円も減らされてしまいました。このことが地方に大変厳しい状況を生んでいます。
京都府ひとつをみても、この間補助金が620億円減り、これに対し、税源委譲が610億円ぐらいですから、10億円ぐらいの差になります。この上に交付税が1270億円も減らされました。これは京都府と市町村が半分ずつぐらいですから、京都府が600億円ぐらい交付税が減りました。
これをどうやってやりくりしてきたかと言うと、例えば、人員削減、事業集約化、それでも埋めることの出来ない分はお金を借りて、今なんとかやってきていますが、既に限界に達しているのが現状です。
こういったことを解決していくために、私達は2つの方法で頑張っていかなくてはならないと思っています。
ひとつは地域が、特に地方公共団体がしっかりしていくような体制、しっかりと自己決定ができる地方政府を確立していかなければならないと思います。
そして、もうひとつは、地域においてもみんなが支え合う、地方公共団体、国に頼るだけでなくて、地域の人々がお互い支え合うような社会をつくっていかなければならない。
地方政府の確立と地域の力をしっかりと活かしていく地域力を再生していく時代に入っていかなければならないと思っています。
私ども全国知事会の方では、第二期地方分権改革への提言を7月にまとめましたが、その中でも、地方公共団体がしっかりしなければならないという観点から、もう一度自分たちの財政基盤を確立していく戦いをやろうじゃないか。国に対しても私達地方公共団体が頑張るから私達に任せていただきたいという提言をしていこうじゃないか。それから行政組織についても、国も地方も簡素化して、国民から見て、無駄な事業をやっていると、無駄な組織になっていると言われないようにして、830兆円を超える借金を解消できる道筋を国と地方が手を取り合って直していこうという提言をさせてただいたところです。
正直言いますと、この議論というものが実りある方向にいっていないのが現状です。「地方政府の確立」だとか、「地方分権論」とか出てくると、必ず反対の動きが出てきます。
こうした地方政府確立論を妨げるのに、3つの議論があります。
ひとつは「どちらが裕福か」という議論。国が裕福なのか、地方が裕福なのか。言い換えると国が貧乏なのか、地方が貧乏なのかという議論です。 今一番多いのがプライマリー議論というのがありまして、難しい議論なんですが、端的に言いますと、地方の方がかなり余裕があるんじゃないか、国の方が830兆円を超える長期債務があって苦しいから地方の方が我慢をすべきじゃないかという議論が出てきます。
でもこれは、まやかしの議論で、なぜ、国が830兆円もの借金を作ったのかということを考えなくてはなりません。考えてみると、国に任すと借金を作るだけなんです。地方の方が借金が少ない。それは地方の方がちゃんとやったからです。ですから、国の方が苦しいから地方にツケを回すというのはですね、アリとキリギリスみたいな話しで、キリギリスがアリに向かって、「我々が借金いっぱい作っちゃったから、おまえさんとこで背負えるか」って言ってるのと同じです。キリギリスに任せていては駄目なんです。アリの方がしっかり働いているんだから、地方へしっかりと権限とカネを渡しておいたほうが借金は減りますよという議論をしなければいけない時に、「私の方が貧乏だから、地方の方がまだ余裕がある」という議論を展開させると、これは違う方向に行ってしまいます。従って、国・地方を通じて簡素な社会をつくらないといけないですよ。という議論を私どもは展開させたいと思っています。
もうひとつは「どちらが得か」論です。
地方分権を進めても、得じゃありません。補助金で配った方が地方は得ですよ。という議論を展開されることが多くあります。
「財源を渡してしまうと弱肉強食になって、これは却って東京が勝つだけですよ。地方が損ですよ」と。これも実は国に権限を残すだけの議論でありまして、そういうことをやってきてからこそ、実は無駄な借金が積もってしまったと。このことを忘れて、自立のできない護送船団方式の地方を作ってしまったから、夕張のような問題が起きてしまったわけです。こういう護送船団でやってる限りは、第二、第三の夕張が出てくるのは間違いありません。それだけにみんなが責任を持てる地方行政を作っていかなければならないというのが、私は2番目の論議に対する反論であります。
もうひとつは「どちらが悪いか」論。
舛添さんがこないだ言われてた「社会保険庁が悪い。それよりもっと市町村の方が悪い」この論議です。この論で進んでる限りは全く前に進まないわけです。社会保険庁が悪いのか。市町村が悪いのか。どっちも悪いじゃないかと言って、世間は終わってしまう。こんな非生産的な議論をしてはいけないわけです。しかし、残念ながらこの議論は説得力がありまして、国も国だけど、地方も地方じゃないか。という議論になってしまって、そして結局はどうせ何やっても駄目なんだ。この国はもう政治家も駄目だし、公共団体も駄目なんだ。だからもう。と言ってしまってるうちに、何もよくならないということになってしまいます。
そうではなくて、一番自分たちに身近な地方公共団体に権限と財源を渡して、そこをひとりひとりの住民が担っていく。社会保険庁の問題を見た時に、社会保険庁が何をやったかと申しますと、私達の年金の何億もの資金を年金以外のことに使っちゃったわけです。グリーンピアだとか、自分たちの研修施設だとか、全く国民の目の届かないところで年金財源が浪費されてしまった。
ほんとはこうした時にどうするべきか。歴代の社会保険庁長官に退職金を返せ。となりますよね。これを地方公共団体がやったらどうなりますか。まず間違いなく住民訴訟が起こります。住民訴訟で負けて、地方自治体の首長が何億円という債務をおうことがままあります。このくらい地方公共団体は責任をとります。
でも、社会保険庁は歴代長官、誰一人として責任をとりません。地方公共団体と国のどっちが責任を取るのかとなると、やっぱり最終的には地方が責任をとることになります。だから誰が悪いかがわかって、責任をとれるところに権限を持ってくる方が同じ悪いにしったっていいと思います。まあ、あまりいい議論ではありませんが。
悪いことばかり言ってきましたけれども、良い面も京都の場合、出てきています。
京都府の財政状況は悪いと言ってきましたが、平成17年で、実質公債比率、47都道府県で全国1位に、18年は10.7%で全国4位でした。これは、これまでの知事さんの時代に大変手堅い行政を行われたおかげです。
もちろん、行政改革の努力もしています。平成11年から18年の間に国家公務員の数は1.8%減りました。それに対して京都府は11.5%。約1割削減しました。 府内市町村も10.8%削減で、頑張っておられます。
それだけではなく、京都の場合は、いろいろな地域資源があります。
地域商標と言って、経産省が行っている、地域の資源を商標登録する制度がありますが、京都がダントツに多い出願件数になっています。
税収の伸び率も全国3位で、京都の底力を感じているところです。
この京都の底力をさらに推し進めるために、多くの地域の協働事業を進めています。
例えば、「京都ジョブパーク」、これは経営者協会や連合さんも一緒になって支える雇用のための組織を作りました。それから「京都モデルフォレスト」、ほんとに様々な企業が参画いただき、地域で京都の緑を守ろうという運動を展開され、全国運動へと拡がってきています。
医師確保の面でも、京都には府立医大があり、この府立医大を中心に地域医療機関と京都府と市町村が協力して、全国でもいちはやく医師確保体制をとることができ、分娩ができなくなった京丹後市で再開し、舞鶴においても休止に追い込まれた心臓血管外科を再開しました。
少人数教育の面におきましても、京都府では一律人数の少人数学級を押し付けるのではなく、少人数学級、チームティーチング、少人数授業という3つのどれを選ぶかを市町村教育委員会、学校、保護者といった学校現場に任せる京都式少人数教育方式を全国でも初めて取りました。
このほか「地域安全見守り隊」などいろいろな協働事業ができておりまして、多くのネットワークをこの数年で作ることができました。
京都府ではこうした事業の上に、もう一度、今ある「地域の力」というものを再結集しようと、今年度の予算で「地域力の再生」を加えました。おそらく、地域力の再生を主眼におき、重点施策とした府県は京都が初めてだと思います。 今、「地域再生」という話しがいろいろ出てますが、京都府はこの分野でも一歩先をいくことができたと思っています。
そして、地域力の再生、難しい言葉で言いますと「ソシャール・キャピタル」、つまり「人と人との絆」をしっかりと取り戻していき、その中で地域の公の力を再生していきたいと思っています。 |